第78話

2041年、9月17日。


コールドスリープから開放され、目覚めてからまだ三日しか経っていないけど、経過は順調とのことで外出の許可が出た。

午前8時半を少し過ぎた頃、お父さんとお母さんが迎えに来てくれた。


そのまま家には帰らずに、綾ちゃんが今住んでいる、隣町のおばあちゃんの家へと向かうみたい。



「綾ちゃんどうなの?何の病気?」



私の問いに、二人とも言葉を濁す。



「うん。まぁ会えば分かる。結構重症なんだ…。正直今の紗織のほうが、まだ軽いとさえ感じるくらいだよ」



…どういうことなのかな。


会話は途切れ、それ以上は二人とも語ろうとはしないし、聞くことはできない雰囲気。

そんな重い空気の中、車が20分ほど走ったところで、おばあちゃんの家の前へと着いた。


駐車が終わり、すぐに行くのかと思いきや、お父さんは重い口を開けて話し始めた。



「…綾音はね。今から一年前の2040年の9月に誘拐されて、一週間近く拉致されて。そのショックで精神を病んでしまって…」


「え?誘拐?綾ちゃんは事件に巻き込まれたの?犯人は?」


「…詳しい状況は…ちょっと言いたくない…言えないくらい悲惨だったんだ。そして犯人は、まだ捕まっていない」



まさか綾ちゃんが…信じられない。


…ただ、ここにいるってことは、殺されたりした訳ではない。

生きているんだから、まだいいのかもしれないよね…。

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