第77話

「…紗織ちゃん、大丈夫?」


「あ、うん。ぼーっとしちゃってごめんなさい!」


「まぁ一人でふさぎ込むくらいなら俺を呼んでよ。話相手になるくらいなら、いつでもできるから」


「…はい、本当にありがとうございます。あ、そうそう、それなら…」



私のほうからってのはなんか妙な気分だけど、メモ用紙に電話番号とLINEのIDを書いて、イチハさんに渡した。



「はい。イチハさんのほうからは教えてくれなそうなんで、渡しときます」


「お、ありがとう。じゃあ退院したらLINEするわ。あ、もしも紗織ちゃんを運命の人だと思ったら、これは捨てるから。本物だったらこんなのはなくても、絡み合う運命の糸はほどけないはずだからね!」



イチハさんがそんな臭いセリフを言った直後。

私の携帯は、LINEの着信を告げた。


『よろしく!』って内容の、かわいいスタンプがひとつ。

…あれ?イチハさんからだ。


早速登録はしてる感じだったけど、まさかというか、もうLINEしてきた。

退院したらって言ってたのに。


ふと顔を上げてイチハさんを見ると、なんだかしてやったり…みたいな表情で、私を見てくすくすと笑っていた。


…正直、未だに誘われてるのか遠ざけられてるのか、それともからかわれてるだけなのかが、私には分からない。

考えていることが単純そうで、そうじゃないような、すごく不思議な人だなぁ。


その後もしばらく話し込み、ふと時計を見ると間もなく10時になろうとしていた。



「あ、じゃあそろそろ検査の時間なんで、戻りますねー」


「そっか。じゃ、頑張ってな」


「はーい」



イチハさんに別れを告げ、病室へと向かう。

ふと一人になると、厳しい現実ばかりを思い出してしまうなぁ。


…明日は久し振りに綾ちゃんに会う。

一年も体調を崩しているだなんて、一体どうしたんだろう。

現実を知り、また何かを失いそうな…そんな予感は頭から離れない。


『どうか無事でいてくれますように…』


そんな風に強く強く願った思い。

それは、神様に届くだろうか……。

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