第76話
2041年、9月16日。
今日は月曜日。
午前9時、今日も軽いリハビリのため中庭へと向かった。
昨日の夕方から降った雨のせいで、足元はかなり濡れている。
ふとイチハさんを探して辺りを見回すと、昨日座っていたベンチの近くに丁度来たところだった。
「よっ!あーあのさ、昨日は逃げるみたいにいなくなっちゃってごめんな。もう少しあの場にいてあげれば、慰めるくらいはできたのかなーってすごく後悔したよ」
「ありがとうございます。でももう大丈夫ですよ。まだ全然実感が湧かないのはありますけど…。きっと後からくるのかな…」
そんな話をしていると、じわっと涙は溢れそうになる。
「…大丈夫?…じゃないよね。うーん…。あ、そうだ、今度お互い退院したらさ、気晴らしにどっかドライブにでも行かないか?まー俺、バイクしか持ってないから、ドライブって言ってもバイクでなんだけどさ」
「…うん、気持ちは嬉しいんですけど、心の整理ができないと思うので、しばらくはちょっと…。ごめんなさい」
私を元気づけようと気を遣ってくれているのが分かるし、実際イチハさんとドライブっていうのも楽しそうだったけど、さすがにまだそこまでの気分にはなれないよ。
「そっか。でも引きこもったりしちゃあだめだよ。失敗したことを思い返して、次に繋げる糧にするってのなら分かるけど…振り返ったってどうにもならないことはあるんだからね」
…確かにそう。
光希のことは今さらどうにかなる話でもないし、こうすれば良かったっていう何かがあるわけでもない…。
ふと思い出す、光希と最後に交わした言葉。
『じゃ、またね』
そんな簡単な、小さな約束さえも叶わなかった。
…ただ、そんな風にいろいろとぐるぐる考えて、こうして心の傷を噛みしめるのには、確かに意味がないのかもしれない。
…でもやっぱり、忘れたり逃げたりする訳にはいかない気がした。
だってそれは、大好きな光希を忘れちゃうってことだから。
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