第75話
「…………光希…」
…もしかしたら、光希が私のことを守ってくれたのかもしれない。
「……あ、じゃあ私以外にも、12年もの間コールドスリープしていた人はあと4人いるってこと?」
「いや、どうやら他の4人はもっと早くに目覚められたようだよ。紗織の場合はその中でも元々の病気の進行が思わしくなかったのと、その病気の新薬の認可が遅れたことも重なって、これだけの時間がかかってしまったんだ」
私は病気で死んでしまっていたかもしれない身。
重ねてそんな事故もあったんだし、今生きているのはそれだけでかなりラッキーなことなのかも知れない。
…そういえば…
「ねぇ、綾ちゃんは?今日は来てないの?」
「…!」
ドキッとした表情で、お父さんとお母さんの顔色が変わる。
…何かあったのかな…。
「綾音はね、ちょっと出掛けたりとかできるような状態じゃないんだ」
「え?綾ちゃんどうしたの?いつから…?まさか震災で?」
「いや、震災とは関係ないんだ。去年ある事故に遭ってね。それから…ちょうど一年前から、少し体調を崩しててね。今は、おばあちゃんの家で過ごしているんだ」
「家じゃなく、おばあちゃんの家?一年も…?」
「ああ。なぜか家には戻りたがらなくてね。いろいろと思い出してしまうからだと思う」
…なにがなんだか分からない。
ただ少しずつだけど、12年という長い時の重さとはこういうものなのかというのだけは、分かりかけてきた。
変化のない毎日を愛し、平凡だったけど幸せだった日々。
それも12年も前のこと。
…2041年の世界は、かつての幼い私が思い描いたような未来などではなく、平凡な幸せを感じられる未来ですらなかった。
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