第74話

「ねぇ、お父さん。いきなりなんだけど、一番聞きたいことを聞いていい?」


「…なんだい?知っている事なら何でも答えるよ」



なぜかここまで医師からの説明はなく、昨日からずっと気になっていたこと。



「…なんで私は12年も経ってから起こされたの?コールドスリープは2年間のはずじゃなかったの?」



これは一番の疑問。


いずれは病院側からの説明もあるだろうから、お父さんに聞くのは違うかも…と思いつつも、我慢できずに聞いてしまった。



「うん、紗織…実はね。紗織がコールドスリープから目覚めるはずだった時期の少し前、光希くんの事故があってから数日後、2020年の9月30日に、それほど大きいとは言えない規模だけど、震災があった。で、その時に病院の機能が一部麻痺して、コールドスリープしていた人達が特にダメージを受けたんだ」


「…え?」


「当時この病院でコールドスリープをしていた人は48人いたらしい。そのうち約8割の40人が装置の故障で死んでしまい、助かった残りの8人も何人かは意識不明の重体になってしまったんだとか」


「…で、私は助かったその8人の中にいたんだね」


「あぁ、そう。特に後遺症も出ずに、運良く助かったのが3人。あとの5人は、一命は取りとめたものの危篤状態になった。…その5人の中に紗織がいた」


「…私、コールドスリープ中にも死にかけてたんだね…」


「この事故は病院のシステムの弱さが問題とされたから、病院側はとにかくその生き残った人達だけは殺しちゃいけない、これ以上の死者は出すまいと躍起になった。で、確実に助けられる状態が整うまで、再びコールドスリープで眠らされたんだ。…そして12年もの時が経ってしまった。うちも含めて、この事故の被害者と遺族が起こした裁判は、まだ続いているんだよ」



まるで詳しい解説者に質問して答えてもらったみたいに、的確で具体的な説明だった。



「それにしても、助かってくれて本当に良かった。…紗織が……光希くんに連れて行かれちゃうんじゃないかって、そんな風にも…思ったよ……」

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