第73話

「…遥希、持ってきてくれてありがとね。大事にする」


「うん…。あ、紗織さん。僕で出来ることがあったら何でも言ってよね。光希の代わりにはなれないけど…何かできることはあると思うんだ」


「うん。本当にありがとう…」


「じゃ、また来るよ」


「うん、じゃあまた」



そのまま遥希とは別れ、一人自分の病室へと向かった。



光希の死。


言葉で伝えられただけであまりにあっけなく、全く実感がわかなくて、もう涙も出ない。

今が2041年だってことすら理解できないでいるのにな…。


部屋に戻ると空は黒くなっていて、まだお昼過ぎだというのに部屋の中も真っ暗になっていた。

今の気分とマッチして、ちょうどいいのかもしれないけど…。


コンコン…


それは担当の看護師さんだった。



「森山さん。ちょっといいかしら。ご両親が面会にこられてるけど、どうしますか?落ち着いてから会いたい、と言っていたのも伝えてあったんだけど…」


「…あ、私もやっぱり会いたいです。現実から逃げたくないから、会います。お願いします、呼んでください」


「…強いのね。うん、分かったわ。今、ロビーで待ってるから呼んできますね」



それから何分かして、さっきの看護師さんが戻ってきた。

そしてその後ろには…お父さんとお母さんがいた。


12年経ち、二人ともさすがに少し歳をとった印象だけど、変わらず元気そうではある。



「紗織………。よかった…、本当によかった。帰ってきてくれてありがとう…。長い長い旅だったね。お疲れ様」



お父さんの言葉に、お母さんは無言で頷きながら涙ぐむ。

そして、私が12年も眠らされた理由も、ついにお父さんから告げられた。

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