第72話
イチハさんが立ち去り、沈黙のまま5分くらい経った頃。
遥希は何かを思い出したかのように、急に話し始めた。
「あ、紗織さん。実は光希から預かってるものがあるんだ。これなんだけど…」
そう言って遥希は、かばんの中から無造作な感じにラッピングされた小さな袋を取り出した。
その袋には、『to Saori』と書かれたシールが貼ってある。
少し古びて見えるけど…そっか。
10年くらい経っているんだもんね。
「光希が亡くなってしばらくして、部屋を整理していた時に出てきたんだ。いつ紗織さんに渡すつもりだったのかな。結局は遺品になってしまったけど…」
「遥希、これ開けてもいい?」
「うん、それは光希から紗織さんへのプレゼントだろうから、紗織さんのものだよ」
一体なんだろう。
…本当なら、もっと素敵なドキドキ感を持ちながら開けるはずだったんだろうなぁ…。
そんな風に思いながら包装を開けると、中には箱が入っていた。
さらに開けてみると、その箱の中にはハートのネックレスが入っていた。
キラキラとした、幻想的なパステルグリーンの光をゆっくりと放っている。
…緑は私の好きな色。
そして私は早速それをつけてみた。
「きれい…。なんかキラキラしてるよ」
「あーこれはソーラー式のバッテリーが内蔵されてる、光るネックレスだね。以前ブームになって、いろんなメーカーからいろんな種類のが出たんだ。光るだけじゃなくて、いろいろと何か機能がついてるやつがあったなぁ。これは…どこのメーカーのやつかな?」
ちょっとしたオシャレ感を出すためか、わざわざ中身だけを手作りの箱に移したみたいで、説明書などは入っていなかった。
だからというか少し期待したけど、特に何か手紙などが入っている訳でもなく、その本当の意味は分からない。
「かわいい…」
デザインや色などはさすが光希という感じで、全てが私の好みだった。
こんなカタチではなく、もし記念日か何かのタイミングで光希から貰えていたのなら…どんなに幸せだっただろう。
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