第68話

やっとたどり着いた入口。



「ありがと…」



イチハさんにありがとうございます…と言いかけたその時、まっすぐ続く廊下の奥からこっちに向かって誰かが歩いて来た。


その顔を私は知っている。


反射的に、掴んでいたイチハさんの服の裾を離す。

涙が出るくらい、何よりも待ち望んでいた顔がそこにはあった。


…だけど少し違う顔。


12年の月日を重ねても、私には分かる。

あれは…光希ではなく、遥希だ。


『なんで光希じゃなくて遥希が来たんだろう?』


疑問とともに不安が募る。

優しく微笑んではいるけど、どこか悲しそうな…。


近づいてくる遥希のそんな表情からも、良くない知らせがありそうな雰囲気が伝わってくる。


いつかどこかで見たような場面。


…あの日見た夢。

その時に感じていた悲しい感情をトレースしてゆくように繰り返し、それは現実のものとなる。


ひとつ、ふたつと涙が落ちた。

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