第五章◆私の居場所
第69話
少し驚いた様子で、ゆっくりとこっちへ向かってくる遥希。
私の病室に向かう途中で、偶然見つけたようだった。
12年経った遥希。
雰囲気は意外と変わり無かったけど、髭を生やしているせいか、さすがに三十代…という感じに見えた。
「…僕にとってはだけど…お久し振りだね、紗織さん。体調はどう?」
遥希は少し寂しげな笑顔を見せながら言う。
「うん…。体は思うように動かないし、だるさとかはまだあるけど大丈夫。ねぇ、光希は?」
自分でもびっくりしたけど、動揺が後押しする感じになったのか、少しの躊躇もなく一番聞きたい事をストレートに聞いた。
遥希は整理していない言葉を選ぶように、時折目を反らしながら、ゆっくりと語り始めた。
「…変に引っ張ったり隠したりしても良くないだろうし、いずれ分かることだから言うけど、光希は………死んだよ…。紗織さんがコールドスリープに入ってから二年近く経った、2031年の9月に……」
真っ白に凍りつく頭の中で繰り返される、意味の分からないその言葉。
たったそれだけの言葉を理解するだけなのに、何秒もの時間がかかった。
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