第67話
光希には悪いなーって思いつつも、この一番辛い時にここにいてくれるイチハさんに、少し頼りたいと思ってしまう。
それに、これだけ内面をさらけ出してこんな話をしてくれた訳だし、たぶん信用してもいい人。
「じゃあまた逢えたなら、私達の出逢いは必然だったってことですね」
「甘い甘い!一度や二度くらいなら、どんなに低い確率の上に起こった事だとしても、あくまで偶然」
んー、意地悪。
「はいはい、分かりましたぁ」
まぁ確かに『運命』というのがあるならば、必死に引き寄せ合わなければ重ならない出逢いというのは運命ではない気がするし。
…そして、その後もいろいろな話で盛り上がった。
しばらくして、少し強くて冷たい風が吹きはじめた頃。
「あ、じゃあそろそろ俺行くね。風が強くなってきたけど、紗織ちゃんも病室に戻る?なんなら手を貸しましょうか?」
「んーん、大丈夫です。一人で歩かないとリハビリにならないですからね」
そんな風に言いつつも、やはり正直体は重い。
ベンチから立ち上がり、歩き始めたところで少しふらつき、イチハさんの服の裾に掴まった。
「…あ、ごめんなさい!」
「あ、いいよいいよ、それより大丈夫?」
少し強がったくせに情けないけど…
「…くやしいけど、やっぱりだめみたい。あそこの入口のところまででいいんで、このまま掴まって歩いてもいいですか?」
「あぁ、うん。もちろんいいよ」
…ゆっくり、ゆっくりと歩き出す。
スローな私のペースに、そっと合わせてくれる。
イチハさんの背中。
少しつまんだ服の裾。
ずっとずっと長い間、こうして見てきた背中とは違う背中が目の前にある。
光希とイチハさんは身長、体重ともにさほど変わらないのだろう。
だけど、どこがどう違うのかは分からないけど、いつも見てきた背中との違いは不思議と明らかに分かってしまい、なんだか違和感と罪悪感を強く感じる。
『…光希、……光希』
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