第66話

「おーっす!また逢えたね」


「こんにちは。昨夜はどうもでした」


「あー、いやいや、夜中に長々と話しこんじゃってごめんなーっ!あの後ちゃんと眠れた?」


「はい、おかげさまで。昨日までさんざん…12年も寝てたのに、寝れるもんなんだなーなんて思いました」


「ははは!そりゃあ関係ねーよっ!」



大きな声で、無邪気に笑う。

それを見て、私も自然と笑みがこぼれた。


イチハさんとは出会ってまだ半日ほどしか経っていないのに、随分前から知っているかのように錯覚してしまう、不思議な人。



「あ、イチハさん。…よかったら病室を教えてもらってもいいですか?昨日、聞いておけばよかったって、あの後ずっと思ってたんですよー」


「んー、あぁ、何か本当に縁があればまた逢えるだろうから、あえて教えなくていいかなーって思ってたんだ。で、やっぱりというか、またこうして逢えた」



…なんだか特別な人かもって言われてるようにも取れるし、はぐらかされて距離を置かれてるようにも取れる。



「でもこれだけ広い病院ですよ?もう二度と逢えなかったかもじゃないですかー」



イチハさんの思うつぼ?

病室番号を聞いただけなのにはぐらかされ、ついついなんだか悔しくなってむきになっていた。



「俺ねー、例えば最高にかわいいって思った人や、この上なく気が合うなーって思える人に出逢って意気投合したとしても、初対面では絶対に連絡先とか交換しないんだよ。これ、俺のこだわり。出逢うべくして出逢った人とは、何もしなくても絶対にまた逢えるから…って」


「えー、なんかせっかくの出逢いを無駄にしちゃうこともありそうですよー!」


「俺ん中ではだけど、それはないかな。俺、運命ってバリバリ信じるタイプだから。偶然は偶然、必然は必然。何もしなくて切れてしまうくらいの出逢いは、それがどんなにドラマチックな出逢いだったとしても、ただの偶然だと思うし」



んー、そういう考え方もあるのかー。


イチハさんの中では、この出逢いはどっちなのかな。

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