第64話

イチハさんと別れて自分の病室に戻り、ベッドに入る。

今夜は絶対に眠れないって思っていたけど、なんとか眠れそうな気がしてきたよ。


今日はイチハさんと話せて良かった。

優しさの滲み出る、とてもいい人だった。


カーテンの隙間からちょうど見える月を見上げながら、ぼーっとする。

…ちょっといいことがあった後なのに、なんだかふと嫌なことを思い出してしまって胸が痛む…。


…私がコールドスリープから目覚めた直後の病室。

トイレから帰ってきた時、病室の中で医師や看護師さん同士が小声で話していた会話を思い出す。



『12年前のことなんて覚えてないよなー。そんな時代から来たってことだろ?時代に全く対応できないだろうし、いろんな意味で孤独だよなぁ』


『ですよね。12年かぁ…。病気なんかよりそっちの方がある意味不幸だよなぁ…』



…少し考えれば分かることだけど、今はまだ考えないようにしていたこと。

強引に再認識させられて、頭から離れなくなってしまっている。


…聞かなければよかったなぁ…。

…でもそれが現実だから仕方ないのかな。


あぁ、明日は光希に逢えるのかな。

それだけが、今の私の唯一の望み。


光希がいればそれでいい、それだけでいい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る