第63話

「…うんうん…、おー!やっぱりだ!凄い!」


「何がですか?」


「あーううん、なるほどね。大丈夫大丈夫。すごく特殊な運命に支配されてて、この先しばらくは苦労するかもしれないけど…ちゃんと明るい未来は待ってるから」


「…あれ?それだけですか?」



なんだかもっと具体的な内容で占ってくれるのかと思っていたので、あまりに抽象的な答えにちょっと肩透かし。



「あー、まー素人だからこんなもんよ。全体的に良い方向に向かうってのくらいしか分からないんだ」



たったそれだけのやりとりで何だか中途半端な空気になったけど、なぜかイチハさんはすごく満足げだった。

そうは言ってもいつの間にか楽しい雰囲気になり、私達はしばらく話し続けた。


…救われた。


深く深く沈みきっていた私の心を、イチハさんは少し引き上げてくれた。


妙な真夜中の自己紹介から始まって、話し始めて一時間くらい経った頃。

ついに見回りの看護師さんに見つかってしまった。



「…何してるんですか?何時だと思ってるんですか。お体に障りますから、それぞれご自分の病室に戻ってください」



まるで修学旅行の夜、就寝時間後に出歩いてるのを先生に見つかってしまった時みたい。

怒られながらも、ちょっと楽しい気分になった。



「じゃ、紗織ちゃん、またね。すごくいい気分転換になったよ。ありがとう」


「いえいえ、こちらこそですよ。じゃ、また」



…紗織ちゃんとかって『ちゃん』づけで呼ぶ人は身内や友達なんかにはいないから、なんだか変な感じがする。

でもイチハさんのキャラのせいか、なんだか悪い気はしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る