第60話

いろいろな事を考え過ぎて、ふと気づけば午前零時になろうかという時間になってしまっていた。

なんだかぜんぜん眠れそうもなく、気分転換になればとなんとなく廊下に出てみる。


…12年という時が経って、世の中は一体何が変わったのだろうか。


病院は廊下の壁の色が変わったくらいだし、窓から見える景色は特に想像していた近未来的な風景な訳でもなく…意外と変わらないように見える。


光希や家族、友達なんかにはまだ会っていないから、私の中で現実味を帯びていないだけなのかもしれないけど。


夜の病院は廊下の電気も消され、不気味な程に静まりかえり、時がゆっくりと流れているのではないかという錯覚すら覚える。



「………?」



まっすぐ続く真っ暗な廊下の奥に、ぽつりと人影が見える。

ぼーっと窓の外を見ている、20代半ばくらいの男性。

短髪でスラッとしている。


左手に包帯をしているし、何かの怪我で入院している患者さんなのかな。


暗闇に浮かぶ姿はちょっと怖かったけど、なんだか『よしっ!』とか気合いを入れるような独り言も聞こえてくるから、幽霊とかではないらしい。


真夜中だから周りには誰もいないし、なんか気づかれたら気まずそうなので、私はそっと病室に向かって歩きだそうとした。


…と、その時。

その男性は、私に気づいたようだ。

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