第58話

……。


思っていたより倍くらいの時間がかかり、やっとトイレまでたどり着いた。


…鏡の前に立ち、恐る恐る顔をあげると…


顔色は悪く、真っ青ではあったものの、私の知る私の顔がそこにあってホッとする。


『……少し…痩せたかな…』


額や頬、髪に手をやり、さらに鏡に近づいて確認する。

歳をとった様子はなく、腫れや見た目の後遺症もなさそう。


『よかった……』


入念に確認し、私が私であることにひと安心。

…と、今一番気になっていた事が解決すると、その他の疑問たちが一気に頭になだれ込む。


…どうして私が12年も眠らされていたのか。

みんなは今、どうなってしまっているのか。


…そもそも家族すら来ず、誰ひとりここに来ないのはなぜだろう。


病室に戻り、医師に聞いてみた。



「私の家族に連絡はしてあるんですか?」



少し遠回しに聞く。



「ここ数日、目覚めの兆候があったのを伝えてありましたから、ここのところ毎日いらっしゃってましたよ。今日は夕方から来ていて、先程…20時頃帰られて…。あっ、今、目覚められたのをご家族にお伝えしたそうです。今から来れるそうですが…どうしますか?」



『どうしますか?』とはどういう意味だろう…?


…あ、そうか。

…さっきバイバイってしたみんなとの再開。


私からしたら昨日の出来事のようだけど、みんなからしたら12年振りの再開。

確かに、考えてみたら12年後のみんなとの再開はちょっと怖くて…。


…そう、私のほうにも心の準備は必要かもしれない…。



「…すみません、やっぱり精神的に落ち着いてから会いたいです。そう伝えておいていただけますか?」


「はい、そのほうがいいでしょうね。分かりました。あ、この後はとりあえず何もないので、今夜はゆっくりしてください」



そう言うと、医師達は部屋を出て行った。

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