第57話

…12年……。


…家族のみんなや光希、そして友人たちは…一体どうなったのだろう…。

12年も経ってしまったなんて…。



「………!」



状況が整理しきれずにいる私の頭の中に、ふとひとつの大きな不安が頭をよぎる。



「あのー…、トイレに行きたいんですけど…大丈夫ですか?」



その疑問を確かめるために、一人になりたかった…。



「あぁ、いいですよ。ただ、落ちた筋力は回復しきってませんから、まだうまく歩けないと思うので気をつけてください」


「…はい」



12年後の未来…いや、2041年の現在では、私のようなケースでのリハビリはほとんど必要無く、脳や筋肉に電気信号を与えることで筋力を回復させることができるらしい。


昔だったらこれから苦しく長いリハビリが待っていたのだろうけど、最新の医療技術のおかげでなんとか歩ける程度の筋力はある。


廊下の手すりにつかまりながら、ゆっくりゆっくりとトイレへと向かう。

体が思うように動かない。

妙な汗が出て、息が詰まる…。


病室からトイレまではわずか30mほどの距離だけど、今の私にはかなり遠く感じる。


…怖い…、すごく怖いけど……

まず鏡を見たい。

12年経った私、どうなっているんだろう…。


もしも…昨日見た自分、想像する自分の姿じゃなかったら…

さすがに堪えられない。

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