第56話

一通りの説明が終わった後、30才くらいの若い女性の医師がゆっくりと話し始めた。



「森山さん、ひとつ伝えておかなければならない大事な事があります。…気を確かに持ってくださいね」


「…?……はい」


「今後の治療とリハビリにも影響しますので、早めにお伝えしておくべきと意見がまとまりましたので」


「…はい。なんでしょうか」



…絶対良い内容ではない。


そう分かっているだけに聞きたくもないけど、どんな内容かはとても気になる。


苦しいほどに高鳴る鼓動。

緊張から呼吸は速く、浅くなる。


そんな私を見て、まるでちいさな子供を驚かせないようにしながらあやす時のように…

穏やかでゆっくりとした口調で、予想もしない真実は告げられた。



「驚かれると思いますが…今は、2041年の9月14日です」


「…はい。……はい?えっ!?なんですか?」



時間は止まる。

私の中の何かが、ゆっくりと音を立てて崩れ落ちる。


…え!?

あれから12年近く経ったってこと…!?

コールドスリープは、二年のはずじゃなかったの?


何が起きたのかは分からないし、それ以前に知りたいこと、聞きたいことはたくさんありすぎる…。

何かの間違いだって思いたいけど…そんなんじゃないのかな?


…受け入れられない現実を、どうすればいいですか?

私は一体、今どこにいると言うんだろう。


分からないし、分かりたくない…。

……助けて……誰か助けて…………。

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