第52話
…コンコンコン。
「森山さん。準備はよろしいですか?あと5分くらいしたら行きますよ」
「…はい」
その知らせとともに私達は現実に引き戻され、なんとなく会話は途切れた。
すこしの沈黙のあと、光希が口を開く。
「あの、お願いがあるんですけど…。最後に少し、二人だけで話したいんですが、いいですか?」
お父さんとお母さんは、にっこり微笑みながら黙って頷いた。
それから30秒程して、部屋の中は私と光希の二人っきりになる。
「…あのさ。これと言って何かある訳じゃないんだけどね。最後に二人の時間がほしくてさ」
「…うん」
「二年…。あ、確かに二年か。…俺らは離れちゃうけど、二年後からはずっと一緒に…同じ年を重ねて生きていこう」
「うんっ!」
「約束だからね」
「分かってるよ。約束ね」
そう私が答えると、光希は穏やかで優しい笑顔になっていった。
それにしても、なんだか最近の光希は心配性。
普段はやきもちだってやかないのになぁ。
「私はどこにも行かないよ。ちゃんと二年したら帰ってくるからね」
「うん。分かってるんだ。なんか…ごめん」
「んーん、大丈夫。…じゃ、そろそろ行かなくちゃ」
…そしてお互いどちらからということなく、最後にキスをする。
唇と唇が触れるか触れないかの、ふんわりとした優しいキス…。
光希と過ごした5分間。
もし私がこのまま死んでしまったりしたならば、これが二人きりで過ごした最後の時間だったってことになるんだなぁ。
…あ、だめだだめだ。私らしくないね。
もうやめよう。
二人の未来は二年後からずっとずっと、遠い未来へと繋がってゆくはずだから。
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