第49話
…病室の前。
恐らくこの扉をこんなにも幸せな気分で開けるのは、きっと私が初めてだろう。
息を整えながら扉を開けると、なんだか懐かしささえ感じる光希の姿がそこにあった。
「光希ーっ!」
「おーっ!紗織っ、久しぶり!病人なりに元気にしてたか?」
「何それー。体調はどんなでも、気持ちはいつでも元気だよ」
「いいねー。いつでもそんなポジティブな発言するとこ、俺は大好きだよ」
「はははーっ、なに言ってんの。照れるじゃんよー」
……あ、やばい。
安堵感とともに込み上げてくる、あたたかな感情に支配される…。
「…あれっ?紗織…」
久し振りの再開。
お別れの前日。
最近光希の前では泣いてばかりで、もう泣き顔はあんまり見せたくなかったから…
涙を見せないよう、うつむきながらゆっくりと窓際の光希のもとへ向かい、そのまま光希の胸に顔をうずめる。
…やわらかい…光希のにおいがする。
なんだかあったかいし、なにより落ち着くよ…。
「……紗織…」
光希はそっと優しく呟いて、そしていつもよりちょっぴり強い力で私はギュッと抱きしめられた。
なんだかドキドキする。
頬から首、背中にかけて、ほんわりとした心地良い風が駆け抜けるかのように…
ときめきの感情と共に、鳥肌が立つみたいな感じ。
「…ねえ、紗織」
「……ん?なぁに?」
ほてる頬を中心にピンク色に染まっている顔を上げ、私達はしばらく見つめ合う。
…なんだか恥ずかしい。
そう思って私が目をそらそうとした瞬間に、光希はそっと顔を寄せ、温かく、優しいキスをした。
何度も何度も、長い長いキスをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます