第三章◆深く、遠くへ…

第44話

2029年、10月22日。

ついに月曜日。

コールドスリープまで、あと三日になってしまった。


昨夜は少し熱が上がり、なかなか深い眠りに就けなかった。

そしてそんな寝不足のまま、ついに来てしまった入院当日…。


ニュースでもやるほどのカナダの記録的な悪天候は続き、光希は未だに足止め。

こうなると25日に間に合うかも怪しくなってきたなぁ…。


…不安。


最後は光希に見送って欲しかった。

そばにいて欲しかった…。

そんな小さな願いすら取り上げられてしまうのかな…。


朝9時。

お母さんと一緒に病院へ向かう時間になった。



「紗織ー、準備できた?行くよー」


「はぁい、今行くからー」



整理や掃除は割と好きなほう。

もともと結構きれいだった私の部屋だけど、今はいつもよりさらにすっきりしている。


机、椅子、テーブル、ベッド、本棚、クローゼット…

そしてそのほかの目に映るすべての物にも、感謝と愛を込めてひとつひとつに視線を送る。


しばしのお別れ。


いままでいつも、ありがとうございました。

ちょっぴり会えなくなるけれど、元気になって帰ってくるから待っててね…。


部屋を出て、隣の綾ちゃんの部屋にも心の中で『さよなら』とつぶやいた。

ふぅ…とひとつ深呼吸をして、気持ちを整えてから階段を下りてゆく。


…なんとなくだけど、リビング、キッチン、和室…と、家の中のすべてにお別れを告げた。

そして玄関の扉を開け、鍵をかけ、お母さんの待つ車へと向かう…。


…いよいよだ。


そう意気込んで、妙な緊張感とともに車に乗り込んだ。

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