第43話

「もしもし…光希?」


「あっ、起きてた?…んー、気付いてると思うけど、実は今、まだカナダ」


「…うん。さっき遥希に聞いた」


「そっか。なんか…入院前の最後のデートの約束、すっぽかしちゃってごめんな。楽しみにしてたのになぁ…。…あ、なんか今日の便も欠航になるみたい。はぁ…」


「…ううん、いいよ、仕方ないよ。…それよりさぁ…25日までには帰ってこれるの?…その日だけは絶対光希にそばにいて欲しいんだけど…」


「………分かってる」



…光希の力だけではどうにもならないこの状況に、こんな時に限って普段は言わないわがままを言って困らせた。



「…あ、光希、ごめん。ごめんね」


「いや、紗織は悪くないだろ?こんな時にいてやれない俺、最低だよな…。…あ、うん、でもさ、25日には絶対に帰れるから」


「…………え?…絶対に、なんて…………期待して結局間に合わないとか……嫌だよ……」


「……大丈夫だから、待っててよ」


「……………」



電話は繋がったまま、沈黙は続く…。

ケンカとまではいかないけど、こんな雰囲気の電話は初めてで、どうしていいか分からなくなる。


光希がこんな風に自信たっぷりに何かを言うときは、どんな事でも不思議と必ずその通りになってきた。

…だけど、今回ばかりは根拠の無い強がりは信じられないよ…。


…しばらくの沈黙の後、



「…また明日も電話するからね」



の言葉を最後に、この電話は終わった。


不安、後悔、自分への怒り、焦り、…そしてどうにもならない運命への憎しみと悲しみ…。

様々なマイナスの感情がぐるぐると渦巻く中、気がつけば平凡という名のほんのりとした小さな幸せは、崩れかけ始めていた。

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