第32話

お母さんといろいろと話し込み、気付けば17時半を過ぎていた。



「…と、そろそろ作り始めないとね」



お母さんはすぐにごはんの支度を始める。

綾音はそのお手伝い。

二人に感謝しつつ、私とお父さんは、リビングでテレビを見ながらごろごろしていた。


それにしても、綾音と私が双子だったというのは本当に驚いた。

でも…なんだかなんとなく…嬉しい。



「はい、できたよー」



18時過ぎ、待望のすき焼きは出来上がり、家族みんなで食卓を囲む。



当たり前の日常。

当たり前の団らん。


今の私には、この上ない幸せな時に感じる。



「あー、やっぱおいしー。サイコーだよ」



そんな私の悲鳴にも似た感激の言葉に、お母さんは笑いながらも満足げに答える。



「紗織は何食べてもそんな感じだけどねー」



それを聞いて、みんなは笑う。


…しかし、ふと会話が止まった瞬間に、やっぱり現実を思い出してしまう。

そうだ、私はここからしばらくいなくなるんだ。

みんなのほうが辛いのかもしれないけど、やっぱり私も辛いよ…


なんだか私のせいで、みんなの笑顔はちょっとぎこちない気がする。

会話も多少、言葉を選んでいるのが分かる。


ごめんね。

ちゃんと元気になってこの家に戻ってくるから…待っててね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る