第29話

病院の帰りに、三人でスーパーでお買い物。



「お母さんと二人で…ってのはよくあるけど、お父さんも含めて三人で…っていうのはなんだか久し振りだねー」


「そうだなー、紗織が中学生になるくらいまでは、よく四人で一緒に来てたのになぁ」



別にお父さんが嫌な訳じゃない。

なんか家族で出掛けるのが、いつの間にか恥ずかしくなっちゃってたのかなぁ。


スーパーに入って野菜コーナーに差し掛かったあたりで、なぜか学校帰りの綾音も合流した。



「ただいまー」


「おかえりー」



状況的には間違ってないのかもしれないけど…

スーパーの中で交わす言葉としては、間違ってるよね。



「あー、お父さん。そういえばさっき車の中で、LINEしてたよね?あれってもしかして綾音に?」


「そうそう、ちょうど綾音も帰って来る時間だったし、久し振りにみんな揃ってお買い物…ってのもいいかと思ったからね」



何年ぶりかな。

結局四人でお買い物。



「紗織、今夜何食べたい?今夜は紗織の好きなのにするから」


「んー…、なら…、すき焼きがいい!」


「すき焼きでいいの?もっと手の込んだものでもいいのに」



お母さんは笑う。



「うんっ、すき焼きにする!」



私はお母さんが作るすき焼きが大好き。


割り下とかに入れてるものは普通なんだけど、配分が絶妙なバランスなのか、私が同じ材料で作っても絶対に同じ味にはならない。

外で食べるものよりおいしいんだよね。


車に乗り、スーパーからの帰り道。

ふとさっきの病院での医師の一言を思い出す。



『あぁ、あなた、綾音ちゃんのお姉さんかぁー。大きくなったねー』



…検査担当のおじいちゃん先生が言っていた言葉。

私も綾音も、普段のちょっとした病気は近所の診療所に行っていたから、この病院に来た記憶はない。

ただ、私も綾音もこの病院で生まれた。


…とはいえ、いちいち覚えているものなのだろうか?


ほっとけばすぐに消えてしまうような小さな疑問だったけど、なぜか少しだけ心の端っこに引っ掛かっていた。

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