第82話

「だいたい…私、『キミ』って名前じゃないですし。森山綾音っていう名前がちゃーんとあるんですけどーっ」



キミなんて呼ばれているからか、居心地が悪い。

真っ直ぐ目を見て話してくれてはいるんだけど、なんだか他人の話みたいだし。


…あー、まーでもなんだろう。

結局その夢の中の女の子って、私なのかそうじゃないのか。


あくまで翔瑠さんの夢の中の話なんだから、見た目や特徴が私であっても、それは私じゃないって事なのかな。


なら翔瑠さんが好きなのは、やっぱり私じゃなくて、その子ってことになるんだろうか。



「あ、そうだよね。俺さ、女の子の事を名前とかで呼ぶのが恥ずかしくてさ、ついついキミ…って。ダメだよな、悪い癖だわ。ごめんごめん」


「まずはそこから直してもらわないと、私に向けられた言葉とは取れないし、取りませんから」



…あ、なんか余計なこと言っちゃったかな。

突っぱねるべきなのに、受け入れようとする気持ちも生まれてしまっているんだ。

そう、心をどっちに傾けるべきなのかを、私は決めかねてしまっている。


そこに引っ張られてすごくドキドキしてるのに、その感情とは裏腹に、少し意地悪なことを言ってしまっている私。


なんだろうな、なんでだろう。

私は翔瑠さんの夢の中の子に嫉妬してるってこと?

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