第五章◇向けられた想い

第78話

周囲に人がいないのを確認する。

見える範囲の近くの席には誰もいないみたい。


菜々香ちゃんも入口あたりの清掃をしているようで、こちらを気にする気配はない。



それらを確認し、セーターを脱ぎ、シャツのボタンを二つ外して、右の肩を出す…。


私は左手で、めくった右肩のシャツを押さえ、左回りで壁側に向いた。



………うん、そうだよ。



私の右肩、やや背中寄り。

左右に隣り合った、ほくろが二つ。


左の方が大きくて、右の方が小さい。


…翔瑠さんが言っていたその子の特徴と、ディテールまで完全に一致している。



「……まじかよ………!!」



そうつぶやいた後、翔瑠さんは息もしていないんじゃないかってくらいに固まってしまっている。


それから一分ほどして、翔瑠さんはゆっくりと、何度も何度も深呼吸をする。



「…あ、ありがとな。もう着て大丈夫。なんだか夢よりも夢みたいだよ。実はさ、確認させてほしいとは言ったけど、やっぱり違った、夢は夢だった…とかって結末を予想してたんだ」


「…そうなんですか?」


「ああ、そりゃそうだろ。まさかだよなー。うーん、俺さ、予知夢とか、非科学的なものなんて信じてないし。あ、そうそう、ちょっとさー、変なこと聞いていい?」



もうここまでで充分聞かれたよ。

いまさら何を聞かれても平気な気がする。

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