第72話

私にはコンプレックスがある。


はっきりとは覚えていないんだけど、小さな頃…一人でお風呂に入り始めた、小学三年生の時。


私は何かを踏んで、お風呂場で転び、額をぶつけて切ってしまった。

目や鼻じゃなくてよかったね…なんて言われたけれど、その時にぶつけた所は傷跡になって残ってしまった。


左の眉から、2cmくらい上のあたり。

2~3mmの間隔で縦に二本、長さが1cmほどの、線のような傷。

お父さんもお母さんも『目立たないから大丈夫!』って慰めてくれたけど。


当時はそんなに気にしてはいなかったけど、5年生になったあたりから気になりだして、中学以降は前髪は下ろして、絶対に額は出さないようになっていた。


お化粧するようになって、ファンデーションやコンシーラーで隠してはみても完全には消えなくて、自分の中では絶対に忘れられない傷なんだ。



…そんなことを思い出し、私は泣きそうになり、少しうつむいた。


急に黙ってしまい、笑顔もなくなった私を見て、翔瑠さんは戸惑ってしまっているようだった。

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