第69話

正直あんまり思い出したくはないんだけど、翔瑠さんの失った記憶が少しでも戻ればと思い、あの日のこと、翔瑠さんの言葉や行動を、思い出しながら伝えた。



「うーん、なんか他人の話みたく思えてさ、いくら聞いても思い出せない。やっぱダメだわ。…あ、嫌な話だったろ?話してくれてありがとな」


「いえいえ、大丈夫ですよ」



…残念だけど、こんなに言っても思い出さないんだから、もう思い出してはくれないんだろうなー。


そしてしばらくして食事も終わり、それから少しすると菜々香ちゃんが食器を片付けにきてくれた。



「ごゆっくりどうぞー!」



テーブルは片付き、すっきりし、のんびりムードになってきたその時。

翔瑠さんが急に、なんだか難しそうな顔になり、唸り始めた。



「………うーん…」



何か考え事でもしているみたい。



「……えーっと、今日来てもらったのは、会って確かめたい事があったからなんだけどさ」



そういえば、昨日言ってたっけ。


…んー?でも…あれれー?

それってさっきの話じゃなかったのかな?



「なんですかー?」


「なんかさー、これ言うと、ほんっとに引かれそうなんだよな」



えー?なんなんだろう。

聞きたくないような、でも聞きたいような…。



「いやいや、そこまで言うんなら言ってくださいよー。絶対に引かないですから!」


「お!まじでまじで!?」



うっ!目が輝きだした!

なになになにー?どーしよーっ!



「ま、まぁ、引かないつもりではいますけど、どうかなー」


「どっちなんだよー。まぁいっか。言うよ。これが目的だったんだから、このままじゃ帰れないしな」



なんとなく勿体ぶられて引っぱられ、その間にいろいろと想像してみたりした。


でも、まだ今日を含めても三回しか会ったことのない人だし、何を聞かれるかは全く分からないなー。

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