第68話

「そうそう、あのさ。キミが…えーっと、その…痴漢に遭って、俺が助けた日ってさ、いつだか覚えてる?」


「んー…」



ぱっとは答えられず、携帯のカレンダーアプリを開く。



「えーっとー、今年の始めの金曜日だから…。7日ですよ、1月7日」


「あー、やっぱりかー」



ん?なにがやっぱりなんだろうな?



「俺さ、事故に遭って、それ以前の記憶が曖昧だって話したの、覚えてる?」


「はい」


「実はそう、成人の日のとこの三連休で旅行行ってさ、そこで事故に遭ったんだけど、その事故ってのが1月10日なんだ」



そうだったんだ。

だからあんな出来事も覚えていないのかもしれない。



「まぁいいんですよ、忘れちゃってても。あれは翔瑠さんなんでしょ?本当に本当にありがとうございました。怖くて悔しくて泣きそうだった私を助けてくれたんですから」


「なんだかなー。お礼言ってもらうのも申し訳ないほどに、全く覚えてないんだよなー。ごめんな」



お礼を言えなかった、あの日の出来事。


私からも話したかったその話題になり、これですっきりするかと思いきや、逆にモヤモヤとする結果となってしまったなぁ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る