第44話

「綾音。ほら、22時40分のやつに乗るよ。早く早くー!」



向かい風に煽られ、頬が痛くなる。

璃咲に手を引かれ、改札を抜け、私はそのまま帰りの電車に乗り込んだ。


ずっと早足で歩き続けたせいだけではない。

色々な思いを混ぜ合わせたような胸の鼓動は、電車に乗ってしばらく経っても治まらなかった。


そしてそれから、帰りに話した内容も一切覚えていないくらいに…私は記憶の引き出しを探り続ける。



気のせいじゃなくて、本当に会ったことがあるんだとしたらどこで会った人なんだろうな。



あれからずーっとずっと、翔瑠さんのことばかり考えている。

お風呂に入っても、ベッドに入っても。

今日の楽しかった璃咲との時間を思い返しつつも、常に頭の片隅に引っ掛かり、残り続けていた。



だけどその時はどんなに考えても分からず、結局はそのまま眠ってしまったんだ。

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