第42話
「うーん、なんだろうな。俺さ、どっかでキミに会った事あったっけ?」
わわ!ち、近いよーっ!
…て、あれ?結局ナンパ…なわけないよね?
「分っかんねーなー。思い出せないや。なんか見たことある気がするんだよなー。最近ではないような…結構前か…」
表情とか口ぶりからは、冗談とかナンパの切り口とかでは無いような感じがした。
「俺さ、前に怪我っていうか事故に遭ってさ、昔の記憶とか曖昧なんだ。俺、中崎翔瑠っていうんだ。漢字はねー、羊偏に羽と、瑠璃色の瑠で、かける。うーん、高校んときとかに会ったことあんのかな?名前聞いたことない?」
うーん…。
思い当たらないなー。
名前を聞いても全く分からない。
「私、あんまり物覚えいいほうじゃないから忘れてるだけかもですけど、名前は聞いたことないと思います」
そう言って、私の名前や出身、学校名なんかを言ってみようかと思った瞬間、璃咲に袖を引っ張られた。
「だめだよ、綾音。助けてはくれたけど、どんな人かも分からないし、何考えてるか分かんないんだからさ、名前とか教えちゃダメだからね」
雑踏の中、ひそひそと話す璃咲の言葉は、私以外には全く聞こえていないだろう。
そっか、そうだよね。
さすが璃咲だなぁ。
抜けている私とは違い、いつでもちゃんと冷静に判断できるから、やっぱ尊敬しちゃうなぁ。
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