偶然の再会

 北京空港に着いて、貸切バスで大学まで行く間、私たちは見慣れぬ風景に夢中になった。暮れゆく北京の街並みは日本とは違う毒々しささえ感じる赤や緑の電球で彩られていた。高層ビル、高層マンションが多いのに驚いた。同時に、胡同と呼ばれるような路地裏集落が残ってることに不思議な感覚を覚えた。


 大学内に入り、それぞれの寮の前に着いた時には辺りはすっかり暗くなっていた。


 寮は一から六楼まであり、うちの大学から来た留学生は五楼か四楼に入ることになっていた。私と毬絵は安い四楼に入ることとなった。四楼の前に集まった留学生の中に、見知った顔を見つけて私は驚いた。



「もしかして、高宮?」

「あ? 花咲? なんだお前も留学?」



 高宮俊は中学生の時のクラスメイトだ。中学生の時よりひょろりと背は高くなっていたが、相変わらず痩せ型。髪を短く刈り上げているのも変わらなかった。



「高宮が同じ大学だって知らなかった。何学部?」

「経済。花咲は?」

「文学部。経済学部の高宮がなんで中国に語学留学しにきたの?」

「面白そうだから」

「高宮らしいね」


 私と高宮の話を聞いていた毬絵が、「誰?」と訊いてくる。


「高宮俊君。中学のときの同級生なんだ」

「そうなんだ〜。私は飯田毬絵。よろしくね」


 女の私でも可愛いと思ってしまう毬絵の笑顔に、高宮は、


「こ、こちらこそ!」



 と明らかに心を奪われたように言った。




 宿舎の部屋は六畳ほど。もちろん畳ではなくて床だ。パイプベッドが二つとエアコン、小さなテレビ。そして小さな棚と机。至ってシンプル。白い壁にはひびが入っていて、年季が入っている感じだ。トイレとシャワーは共同。シャワーといってもシャワーヘッドはなくて、お湯が上から落ちてくるだけのもの。お湯にならなかったり、排水溝が詰まってシャワールームが水浸しになったりは当たり前。そんな全てのことが私には真新しく映った。毬絵との共同生活も意外とすんなりうまくいった。


 午前中はは8時から12時まで授業。午後からは自由時間。週末は自由参加の遠出が企画されていた。


 中国人の老師だから当たり前と言えば当たり前だが、授業が中国語のみで行われるのが難しく、半分理解できてるかどうかというところだった。学校周辺のお店の店員も中国語以外は通じないと言うのに苦労したが、カタコトの中国語が通じた時はなんとも嬉しい気持ちになった。


 隣の部屋には韓国人留学生が住んでいて、親切に色々と教えてくれた。一番助かったのは、値段交渉をすることを教えてもらったことだ。外国人だと分かると値段を釣り上げられるらしい。もちろん留学生同士の会話も中国語で半分はジェスチャーだった。国を超えての交流は通じているかはともかく、楽しかった。

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