第20話 フェインの思い

「俺は、ヴェルデに拾われたようなもんなんだ。身寄りがなくていろんな仕事を転々としながら生活してたんだけど、ある時ヴェインが俺の魔法の才能を見出してくれたんだよ。研究を手伝ってくれと言われて、それからずっと一緒に研究ばかりしてきた。ヴェルデのお陰で俺は仕事も地位もまともに得ることができた。俺は人付き合いも上手くないし好きじゃない。あいつも研究さえしていればいいというタイプの人間だったから、これからもずっと二人で研究だけして生きていくとばかり思ってたんだ。そしたら突然あんたを連れてきて、婚約者だって言うんだぜ。一体どうしちまったんだろうって思うだろ」


 研究をしながら苦楽を共にしてきた長年の友に、突然婚約者が現れた。そして今まではずっと一緒に研究していたのに、婚約者にかけられた魔法については自分だけで対応すると言う。疎外感を感じるのは無理もない。だが、ローラにはフェインからそれだけではない何かを感じていた。


「あの、このようなデリケートなことを聞くのは失礼かもしれませんが、フェイン様はヴェルデ様のことを、その、好きなのではありませんか。性別関係なく、といいますか、恋愛感情と言いますか、表現が難しいのですが」


 ローラの問いに、フェインは両目を丸くして固まる。そして、顔を片手で覆うと盛大にため息をついた。


「いや、あんたが思ってるような感情ではないよ。この国は性別関係なく恋愛も結婚もできるし、誰も否定もしない。だけど、俺がヴェルデに思ってるのはそういうものではない、多分」


 最後に多分、とつけるあたりにフェインの人の良さと誠実さを感じて、ローラは思わず微笑んだ。


「でもあんたがそう勘違いしたってことは、少なからずそう思われるような態度を俺がとってたんだろう。自覚はないけどな。そうなると、恐らくだが大切にしてた家族を急に取られた気分になったとか、そういうところだろ。ヴェルデに対して俺がそう思っているっていうのはなんだか癪だけどな」


 やれやれと肩をすくめてそういうと、フェインはローラを真っ直ぐに見つめた。


「婚約者のあんたにそんな風に思わせてしまって申し訳ない。本当はあんたのこともちゃんと祝福したいんだ。でも、そもそも女性との関わりもあまりないし得意じゃないからどう接していいかわからないんだよ。気に触るようなことをしていたら申し訳ない」


 フェインはそう言って静かに頭を下げる。


「いえ、お気になさらないでください。違うとはおっしゃっていましたが、もしフェイン様がヴェルデ様に恋愛感情を持っていたとしたらむしろ私の方が申し訳ないと思っていました。それに家族のように思っているのでしたら、なおさら突然やってきた私がヴェルデ様を独り占めしてしまうようなことになっていますし、どんな対応をされたとしても仕方ないと思っています。こうやってフェイン様が私に真摯に向き合って下さることは本当にありがたいことです」


 首を振って静かに微笑むローラ。そんなローラを、フェインはぼうっと見惚れるように見つめていた。


「あんた、本当にできたお嬢様なんだな。こんなに素直だとヴェルデもむしろ心配になるだろ」

「誰がなんだって?」

「ヴェルデ様!」


 ローラとフェインが声のする方を見ると、入り口にヴェルデが少し不満げに立っていた。


「二人がなかなか戻って来ないから心配になって見にきてみたら、随分と仲が良さそうじゃないか」

「婚約者様と仲良くしてこいって言ったのはお前だろ」

「そうだけど……なんか妬けるな」


 そう言ってヴェルデはずかずかと入って来て二人の間にある椅子に座る。


「お湯も沸いたので、お茶はお部屋にお持ちしますよ?」

「いや、もうここで飲んでしまおう」

「そうだな、その方が手っ取り早い」


 二人の返事にローラは思わずくすくすと小さく笑い始めた。


「ローラ様?」

「うふふ、すみません。お二人の息がぴったりなものですから、つい嬉しくて」


 嬉しそうに笑うローラに、ヴェルデとフェインは目を合わせて少し照れ気味に微笑んだ。




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