第19話 気持ち

(フェイン様が来て下さってちょうどよかったわ、あのままだと心臓がもたないもの……!)


 給湯室にお茶を淹れに来たローラは、ヴェルデとのあまりの近さに胸がどうにかなりそうだった。そのことを思い出して両手で頬を押さえ、ほうっとため息をつく。そして、部屋に入ってきたフェインの様子を思い出してさらにため息をついた。


(フェイン様は私のことを快く迎えてくれたわけではない気がするわ。ヴェルデ様の婚約者だから渋々、と言ったところかしら。それもそうよね、急に突然見知らぬ女が婚約者です、なんて驚くだろうし)


 ヴェルデの仕事はそのほとんどをフェインが手伝っているらしい。二人の付き合いはかなり昔からのようで、そこに突然ローラが入ったような形だ、あまりいい気はしないのだろう。


(できればもうちょっと仲良くなれると嬉しいのだけれど……慌てても仕方ないわね。とにかく今はお茶を淹れましょう)


 ローラはお湯を沸かしてお茶の葉を選び始めた。選棚にはいろいろなお茶の葉が並んでいる。あまりの多さにどれにしようかと悩んでいると、背後から声がした。


「ヴェルデはアールグレイが一番好きだ」


 振り返ると、給湯室の入り口に背中をもたれかけて腕を組んだフェインがいる。


「フェイン様。アールグレイだと……これですね。フェイン様はどれがお好きなんですか?」


 ローラがお茶の葉の入った瓶の一つを取り出しフェインに見せ首を傾げる。


「俺も同じものが好きだ」

「では、アールグレイをお淹れしますね」


 ニコッと微笑むと、ローラはティーポットとカップを手際よく用意して、お湯が沸くのを待った。


「……最近の態度、色々とすまないな。ヴェルデに謝ってこいと言われた」


 突然、フェインがボソッと言葉を発した。どうやらローラに謝罪をしているらしい。その顔はどこか苦々しく、だが嘘はついていないように見える。


「……いえ、私はここに突然やってきた身です。ヴェルデ様のお仕事をフェイン様がずっと今まで支えてきたと聞いていますので、お二人の仲に突然私のような人間が来て、しかもヴェルデ様のお仕事を増やしてしまったような形になって…… きっとフェイン様も色々と思うことがあったのだとわかっています」


 眉を下げて少し寂しげに微笑むローラを、フェインは驚いたように見つめた。


「あんた、お嬢様なくせに随分と優しいんだな。高飛車な感じが全くしないし。まぁ、ヴェルデが見込んだご令嬢なんだから当然といえば当然か」


 はぁ、とため息をついてフェインは給湯室の中へ入り、近くの椅子に座る。それを見てローラも近くの椅子に腰をかけた。





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