第16話

浅見中学校跡地。

 別府駅と東別府駅の中間にある地域で、すぐ側に浅見神社と言う大きな神社がある。


 だが――ここは水害のハザードマップに載っている。

 浅見川という川の下流で、台風や大雨で氾濫したことがあるのだ。


 児童数の減少に伴う公立学校の統廃合で、浅見中学校はあっさりと廃校になった。いざという時に避難所にもなれない立地が問題だったのだろう。

 跡地をどうするか話し合っていた頃、買いたいという声があり、公平に競売にかけたところ、J&Jが高額で落札した。


 J&Jが会社でも作るのか? と当時別府市民は湧きたったが、完成したのは水害対策として石垣を築いた上に建てられた、豪華な屋敷だった。


 その屋敷の特等室で――実ノ里はもうどうしたらいいかわからなかった。


 広い部屋がいくつもある【私室】の寝室の隅っこに、似つかわしくない家具が所在無げに置かれている。

 実ノ里がアパートで使っていた家具たちだ。愛着はあるが、はっきり言ってこの部屋に置くにはみすぼらしすぎる。


「全てそちらの収納に収まりますが……お使いにならないのでしたら入れましょうか?」

 使用人が提案してくれる。

 なるほど、それならクローブと破局してここを出ていくことになったら、元の家具を持っていける。

「はい、それでお願いします。ありがとうございます」

 実ノ里の小さな部屋にあったものは、冷蔵庫など含め、収納に入れられた。


「お部屋にあった手芸道具はいかがなさいますか?」

「は、はい、使います! 要ります!」

「一室、手芸専用になさいますか?」

 実ノ里の部屋のいくつもある部屋の一室をレースの部屋にするという意味だ。

「は、はい、それでお願いします!」


 今日はクローブが一日仕事で家を空けている。彼曰く、「明日はデートだよ」とのことだ。


 使用人がレース用に選んでくれた部屋は、棚などの収納が多くあり、テーブルも広くて使いやすそうだ。


「あの……ところで、もし部屋のもの壊しちゃったら……私、弁償できないんですけど……」

「大丈夫でございます。ここにあるものは全て実ノ里さまのものですので、壊れても実ノ里さまはお気になさらなくて結構です。すぐにお取替えいたします」

「うう……」


 始まった「セレブ生活」に馴染むのはいつの日だろうか。

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