第19話

「……じゃあな」


 帝宮の前で、俺は彼女に言う。


「リル様……」

「あんたが選んだ生き方だ」


 何か言いかけた彼女を、俺は遮って言った。


「正直言って、あんたがああしなくても、俺はあんたの身分を使おうと思ってた。

 ……でも、あんたは自分から皇女だと名乗り出た。


 それが全てなんだよ」


「………………」


「人の使い方なんか慣れればいい。皇帝でも、ドルメットにでも教わればいい。

 ……権力を振りかざせ。それがあんたが選んだ道だ」


 と、銀のレリーフを彼女に握らせ、

「ドルメットの奴に返しておいてくれ。俺の役割は終わった」


 そして、また彼女に跪いた。

「お元気で。皇女殿下」


「リル様……」

 涙声の彼女の顔を見ずに、俺はその場を立ち去った。


 ――良かったんだ。これで。


 皇帝に隠し子がいたことが発表されたのは、翌日だった。暫くは役職に就かず、政治を学ぶということだったが。

 リーリアント・ジュレア・メルフィース。第四皇女。

 彼女は、時の人となった。



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