第16話

「うわっ!」

 レンが吹っ飛び、広間の壁に叩きつけられる。


 同時に血を吐き、ずり落ちる。


 ――本気だ。俺たちは悟った。

 殺らなきゃ、殺られる。


 ティルが気弾を放つのと同時にフォグが剣で切りかかり、一瞬遅れてリーリアが魔弓を放つ。

 俺は、レンに駆け寄った。……生きてるが、ヤバイ。鎧の背中の部分は割れて、隙間という隙間から血が溢れている。


 向こうを見やった俺は、息を呑んだ。


 フォグの剣は、素通り。

 ティルの気弾はおろか、リーリアの魔弓でさえ、そいつの前に現れた光の壁に阻まれた。


「援護してください!」

 リーリアの声に俺たちは固まった。彼女を背後に護って。


 リーリアが詠唱を始める。魔力の全てを、魔弓に込めるつもりだ。


 詠唱が終わるまで、護らねえと。……いや、待てよ?


「おい、話し合おう。

 俺たちは雇われて来ただけだ。封夢の玉が欲しいわけじゃない。

 このまま帰るから、見逃してくれねぇか?」


《……笑止》


 衝撃波。


 それが理解できたのは、吹き飛ばされた後だった。レンのように壁に叩きつけられて、もう意識が朦朧としている。


【深い森を 迷い歩いた】


 そんな声が聞こえてきたのは、そんな時。


【道はどこも 暗く険しく】


 この声……リーリアか? ……歌ってやがる。こんな時に。


【ひとり歩むときはただ淋しく】

【いつも君を思い出したよ】


 ここまで来て、やっと俺は、消えかけていた意識が戻ってきつつあることに気づく。


【I know that I’m in my love】

【遠い 想い 今は遥かでも】

【I feel that I’m in my love】

【彼方 消える まぼろばの悲哀】


 これはまさか――呪謳?


【And then】

【たとえ遠くとも 君と歩んでいたい】

【それだけが】

【僕の生きる今】


 身体を起こすと、フォグとティルも俺と同じように吹き飛ばされていたらしい。そして、レンを含めてみんな、立ち上がろうとしている。


【I know that I’m in my love】

【懸ける 想い 誓いに変わるなら】

【I feel that I’m in my love】

【今は 総て 君に捧げたい】

【And then】

【嘗て捨て去った この心すら 抱いて】

【よみがえる】

【僕の願い 意思】


 光が、リーリアから発していた。

 歌は続き――やがて、終わった。


 ――沈黙が、落ちる。


《……良いであろう》


 沈黙を破ったのは、蒼穹の一族。


《呪謳遣いよ。汝に免じ、退く事を許す。

 命が惜しくば、二度と来ぬことだな》


 その言葉を最後に。

 俺たちは、洞窟の前に立っていた。



◇◆◇◆◇

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