第27話

「やあやあお二人さん、元気かな? 仲良くしているかな?」

 忘れるはずもない。二日前リュシオスを不機嫌にさせた張本人が、夕食が終ったばかりの部屋に来た。


「ヴァセッタ! 誰が入っていいと言った?」

「ワタクシです。王子殿下」

「黙れ!」


 リュシオスが王子とか殿下とか言われるのをひどく嫌っていることは、周知の事実だ。


「何をしに来た?」

「様子を見にでございま~す」

 言いながら、リリアの手を取る。


「リリア、そいつに構うな!」


「初めまして。コレンティア。ああ、喋らないで下さいね。こういう状況では、夫のリュシオスが紹介してくれないと会話しちゃいけないんですよ。神殿ってのは堅苦しくていけない……。ああ、コレンティアってのは花嫁って意味です。お名前は存じ上げておりますが、何分リュシオスの紹介がないと名前を呼ぶのも失礼にあたって。私めはヴァセッタ・トルメリア。しがない神官でございます。昔は王城に……」


 リュシオスが、ヴァセッタの腕を掴んだ。

「離れろ!」

 突き飛ばすと、胸倉を掴み、


「人の妻にちょっかいを出すな。昨日の名前も筆跡も違う手紙……お前だな?」

「おうおう、怒ったか」

「質問に答えろ!」

「だって、俺の名前と筆跡じゃ、お前が用心するだろ? ちょっと人に頼んだのさ。なーに、軽いイタズラだよ。本気じゃないさ」


 がつっ!

「出て行け」

 殴ってからそれだけ言うと、リュシオスは黙った。


 王城にいた時を除けば、一番怒っている。

 ヴァセッタが出て行かないのを見て、リュシオスは無言でリリアを連れて部屋を出た。



◆◇◆◇◆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る