第28話

剣がうなる。

 城の中庭。リュシオスは、ただ闇雲に剣を振り回していた。訓練とか言っていたが、誰も居ない。


「……あの人、リュシーのこと、リュシオスって呼んでたね。やっぱり、仲のいい人じゃないの?」


「俺をリュシーと呼んでいいのはお前だけだ」

 剣を動かす合間に、リュシオスが言う。

「お前で三人目。後は母さんと姉さん……もういない」


 そういえば、それはリリアには話していなかった。彼から直接、母や姉のことを話したこともない。


「あれ? でも、王都で……」

「あの連中が勝手に呼ぶだけだ」


 剣を水平に動かし、何かを見定めるように左右に振る。

「許可した覚えはない」


 びんっ! 剣が、離れたところにある木に、真直ぐに突き立った。


 無力さ故に母と姉は殺され――同じく無力さ故に彼だけが生かされた。


「リリア」

 しばらくして、リュシオスが言う。視線は、木に突き立った木に固定されたまま。

「お前は……お前こそは守る。だから安心しろ。

 俺はお前を巻き込んだ。だから、この命に代えても責任は果たす」


「ふざけないで!」

 リリアは怒鳴っていた。リュシオスが驚いたように振り返る。


「あたしはリュシーに死んで欲しくない! 命に代えてもなんて言わないで!

 あたしはもう、リュシーがいないと……」

 そこまで言って勢いを失い、彼女は足元を見た。

「リュシーが、あなたがいないと……あなたを失ってまで……」


「……ごめん」

 うろたえて、狼狽して、困っているような声だった。



◆◇◆◇◆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る