第24話

リュシオスのスケジュールにも謁見があった。リリアは、その時ばかりはドレスを着せられ、リュシオスが座る椅子の隣にある、小さめの椅子に座っていた。……この椅子は長いこと空席だったそうだ。


 何人か謁見者が来た後、最後の名前が読み上げられた。


「よう! 久しぶり!」


 神官らしかった。くだけた調子で入ってくると、リュシオスが席を立って降りていく。振り返って促すので、彼女も続いた。


「ほう、聞いたとおりだな。おめでとう」

 無表情なまま、リュシオスは応対していた。別段、いつもと変わらないようだ。


 リリアに紹介する気がないらしく、一人で話を進めるリュシオス。やがて話は終ったらしい。


 帰るかと思ったら、リリアに近づき、

「本当にあんたに気を許してるな。こいつのこんな緩んだ顔は久しぶりだ。

 こいつ、我侭でしょ~?」


 彼女がその意味を問うより早く、

「ヴァセッタ!」

 リュシオスが慌てて彼女の前に入り、男に怒鳴りつける。


「おう、恐い恐い。

 また来る。今度は紹介してくれよ」


「王都を出る前からの知り合いだ」

 彼の姿が見えなくなってから、リュシオスが言う。


「悪い奴じゃないんだが……見ての通りのお調子者だ。……有能なところも否めないな。

 あいつも必要になる」

「リュシーに?」


 リリアが聞くと、彼は、暫くためらってから、


「次の五月で十七になる。そうなったら、王位継承権を返上するつもりだ」

 確かに、貴族社会では十七で成人となる。自己決定権も広がるだろう。だが、


「そんなことして、大丈夫なの?」


「その為だ」

 リュシオスは、溜息をついて、

「その為にあいつらの助けが要る。俺が元王族な方が都合のいい連中もいるんだ。そういう連中の助けを借りて、このふざけた因縁を断ち切らないといけない」


 彼が『助け』と言うことに珍しさを感じていると、


「そうすれば、お前とも……」

 と、彼は彼女の顎に手をかけ、

「俺には、お前も要る」

「……分かった」

 リリアは、自分から唇を寄せた。

「側にいる」


「おう、お熱いことで」

 いきなりな声に振り向けば、さっきの神官。戻ってきたらしい。


「……ヴァセッタ……貴様……」

「おう、お前が怒るなんで珍しい。

 邪魔されてご立腹ですかな?」

「去ね!」

 今度こそ、男は帰っていった……のだろう。


 リュシオスは、忌まわしげに、急いで彼女を連れて謁見の間を出た。機嫌を直すのが大変だった。



◆◇◆◇◆

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