第23話

翌朝。起きると、リュシオスは既に着替えて机に向かっていた。羽根ペンを走らせている。


「…………」

 リリアは、自分の格好――昼間の服装をきっちり着ている――を見ながら立って、リュシオスの前に行く。


「一つ、早急にはっきりさせたいことがあるんですけどね」

 リュシオスが、感情のないアイスブルーの瞳で彼女を見る。


「最初に会った日――あの晩よ。あの時、あたしは寝間着姿だったけど、次の日の朝っていうか昼にはあなたがくれた服を着てたわ。

 あれ、一緒にいた女性が着替えさせたのよね?」


 目に、何の感慨も見せず、

「いや、俺だ」

 あっさりと、事も無げに言い放つ。

「どうかしたか?」


「こ、こ、こ……」

 暫く、リリアは言葉を詰まらせていたが、

「この変態!」


 次の瞬間には彼の澄ました顔の下の首を絞めていた。

「最初っからそういうつもりだったのね! 何? 昨夜は純情そうな顔しといて? そんな顔して一体何人抱いてきたのよ?」


「……言いたい事がよく分からないが……」

 彼女の手を振り解き、一つ一つ確認するように、

「最初からそういうつもりだということが分からなかったか? 普通、その気もないのに女を――しかも嫌がる女を無理矢理同じベッドで寝かせたりしない。

 それから、寝た女はお前だけだ」


 感情のないアイスブルーの瞳で怒りに震える彼女を暫く見てから、

「それより、父さんたちに手紙を書いてくれ。これに添える」

「……え? 国王様に? あたしが?」

「違う。お前の家族だ」


 言いながら、さっきまで書き込んでいた羊皮紙を見せる。立派な紙で、金の箔押し。正式な命令書のようだ。


 リリアは目を通し、顔を引きつらせた。中には、嫁にするから彼女を寄越せと書いてある。


「……あんたねぇ……」

 澄ました顔に指を突き付け、

「礼儀って言葉を知ってる?

 普通、命令書じゃないでしょ! 手紙で、お付き合いしてます結婚させて下さいって言うでしょ! 見下してどうするの?」


 リリアを見つめるアイスブルーの無表情な目。


 ……こいつ分かってない。そう彼女は理解した。


「……いいわよ。もう」

 彼女は、彼の正面から横に回り込み、

「ほら、紙出して。書き方教えてあげるから。

 常識ってもんを考えなさい」


 彼は、素直に手紙用の羊皮紙を出した。


 ……上に立つことばかり強制されて、虚勢ばかり教えられて、知らなかったのだろう。

確かに子供だった。



◆◇◆◇◆

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