第21話

リュシオスは、まだ口をきかなかった。


 その日の夜。リリアはベッドに横になって、浴室から響く音を聞いていた。いつもは、風呂に入れとか言うのだが……彼が言うのを待っていて、かなり遅くなってしまったし、結局それすら言ってくれなかった。彼も早く寝ないと、明日に響くのだが。


 ――おやすみも、言ってくれないかな……。謝ってみようか……。謝って済むなら……。


 水音が止んだ。少し目を閉じていたら、頬に手が当てられた。やけに早く出てきた彼に一瞬疑問を覚えたが、すぐに分かった。……濡れた手だ。


 目を開けると、リュシオスの顔が間近に迫っていた。そのまま唇を重ねる。リュシオスの短い、濡れた黒い髪が彼女の頬にかかる。


「……リリア」

 不安げな、声で彼女を呼ぶ。

「リリア……」

 彼女は身を起こした。薄明かりに、一糸纏わぬリュシオスの姿が浮かぶ。

「……リリア……」

 薄明かりの下、リュシオスの目が彼女を見つめる。


 リリアが手を伸ばしてリュシオスの頬を包むと、弾かれたように彼の目が見開かれた。


「……大丈夫。そんな目しなくていい……」

 彼はただ、彼女に覆い被さった。



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