2 愛に飢えた子供

第16話

2 愛に飢えた子供


 ファイクリッド王国西部、ボールテックと呼ばれる領地。王都からは遠く離れたのどかな田舎だが整っており、穏やかに時間が流れていた。


 側の山から見下ろすと、眼下に領主の城と城下町、豊な田園と美しい湖が見渡せる、良い場所だ。

「何考えてんのよ!? あんたはぁッ!!」

 その、領主の城で。

 リリアは一人怒鳴っていた。


 ――沈黙。


「上がったんなら行くぞ。さっきも言ったが時間が無い」

「待ちなさいッ!」


 リュシオスの無表情な、事務的な声に、リリアが待ったをかけるが、彼は部屋の出入り口に向かい、

「早くしろ」

 彼女が追いかけないので、そこで振り返って待っている。


「すまして言うなぁ!

 あんた、自分が何したか分かってんの!?」


 冷たいアイスブルーの瞳に、彼女の姿が映る。長い黒髪、黒い瞳。惚れているリュシオスに言わせても、大して美人ではない。


「何か問題があったか?」

「あったわよ!」


 彼は……リリアの風呂を覗いたのだ。いや、何憚ることなく見たと言った方が正確か。


 先程のこと、彼女は、リュシオスに促されて入浴していた。身体を洗っている最中に、何を考えたか彼はドアを開けたのだ。


「急な用事が入った。今から向かうから急いで上がってくれ」


 それだけ言うと、唖然として硬直するリリアを残し、無表情なまま何事も無かったようにドアを閉めた。そして、先程の会話というわけなのである。


 述べておくと、この城には女官も侍女も大勢いる。彼女らに頼むなり、そうでなければ脱衣所から声をかけるなり、他にいくらでも手段はあった。


「分かった。後で聞く。時間が無いんだ」

「ごまかすな!」


 リリアの側に来て腕を掴んだリュシオスに彼女は抵抗し、

「だいたいその無反応は何なのよ? 照れるとか、鼻の下伸ばすとか、顔を背けるとか……もっと色々反応はあるでしょ!

 何? あたしそんなに魅力ない? 裸見ても何も感じない? あんたそれでも男!?」


 リュシオスは、少し思案して、

「リリア……お前、こう言っているのか?」

 リリアが殺意を抱くほど無表情だった。


「俺にお前を犯せ、と?」


「言うか!」

「なら気をつけろ。そう聞こえるぞ。

 ほら、来い。時間が無い」


 結局、時間が無いを繰り返し、リュシオスは彼女を引っ張っていった。

 ……結局、謝らなかったが。



◆◇◆◇◆

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