旅の事、世界の事、猫の事、、、ちょっと笑える日々の事

@sayochee

第1話こんな乗換ありえる!?日本からフランス経由でニューヨークという某フランス系航空会社珍道中

 7年前位まで、私はとある趣味のため、なんとかお金を工面してカリブ海の某国へ毎年行っていた。と、書くとお金持ちみたいだけど、日々節約し、なんとか工面して行くので、いつホームレスになってもおかしくないような経済状況だ。

 なので、毎回の飛行機チケットをいかに安く買うかを日々研究している。安くて面白ければ、なお結構。

 これは10年くらい前の話、某フランス系の航空会社が成田からフランス経由ニューヨク行きというとんでもない大回り、成田ーフランス10時間、フランスーニューヨーク10時間、地球半周するようなバカみたいな乗換ルート、だけど値段もとんでもなく安いチケットを見つけた。しかも、滅多に乗れない航空会社。乗った!買った!旅行3ヶ月位前だったが、即座に購入し胸を踊らせた。

 しかし、まさかそれが私のプチ珍道中の始まりとはその時は思いも寄らなかった。

 

 初めての航空会社、いざ搭乗。乗客は私の見える範囲は全てフランス人と思われる。搭乗のお出迎えから席に着き、滑走路へ走行するまでの間、機内のクルー向けの連絡アナウンスも、乗客の話す声もフランス語しか聞こえない。この飛行機は既にフランスか?日本人はいないのか?と錯覚する程徹底してフランス語で話す声しか聞こえない。ここで急に不安に襲われた。フランス人は英語を話さないともっぱらの噂だし、コミュニケーション取れなかったらどうしよう、機内食で食べたいもの頼めないかも?困った時に困ったままかも?入管でフランス語が分からなくて捕まったら?日本発だからって舐めてたよ。たとえその国に滞在しなくても言葉は少し勉強しておくべきだったのかもしれない。しかも隣のフランス人のおねえさんもツーンとすましてクールなお顔。だめだ、終わったかも、と思っていたら機内放送、なんと日本人の女性クルーがアナウンスしているではないか。

「当機には日本語を話せるクルーが搭乗しております。御用の方はお申し付けくださいませ。」

 なんと素敵なアナウンス。とりあえず、助かったようだ。まだ、その日本人クルーの姿は見えないけれど、これで一安心、だと思ったのも束の間だった。

 

 いよいよ、機内サービスが始まり、飲み物を運んで来てくれたのはフランス人のおじさんクルー二人。日本人クルーが搭乗してたって、エコノミークラスだから必ずしも私の列に日本人クルーが来るわけじゃないし、私だけ特別扱いで日本人クルーが来てくれるなんて事もありえないよね、残念だけど、でも本当に困ったらその人を探せば良い。そうは思ってもちょっとがっかりしてしまった。

 が、しかし、私の列に来てくれたドリンクサービスの一人のおじさんクルーが私の前で止まり、いきなり流暢な日本語で

「オ飲ミ物ハイカガデスカ?」

と聞いてきた。一瞬混乱して固まった。

 このおじさんクルーが機内アナウンスのあった「日本語を話すクルー」だったのだ。


「日本語が話せるフランス人のおじさんのクルー」。

 なんかコレジャナイ感満載。


 いや、そんなふうに思っては申し訳ないのはよくわかっている。機内放送で日本人の女性と思われる方のアナウンスは「日本語を話すクルー」と言っていたし、それが日本人の女性クルーとは言っていない。全然間違ってはいない。けれども想像していた状況と大幅に異なったので頭が混乱してしまったのだ。

 しかし、そのおじさんクルーは日本語を話すのが楽しいです、という感じで、私に優しく挨拶をしてくれて、話しかけてくれて搭乗中は常に私を気遣ってくれていた。

 もしかしたら、航空会社が日本人の私が乗っているのを把握していて、そのおじさんクルーをこちらに配置してくれたのかもしれない。だとしたらとてもステキな話だ。 

 そんなおじさんの笑顔に心底ホッとした。しかし、そこはエコノミークラスの事、毎回そのおじさんがサービスをしてくれると思いきや、ワゴンの前と後ろでどちらのクルーが接客してくれるかは運の問題なのだ。

 運が悪い事に日本語おじさんクルーは最初のドリンクサービスの時だけで、食事の時はもう一人のおじさんクルーに当たってしまった。しかもこのもう一人のクルー、「絶対にフランス語以外しゃべらないマン」だったのだ。私が平たい顔の日本人なのに徹底して英語でもなくフランス語で話しかけてくる。なんたる落差、何言ってるか全くワッカンネー!

 しかも肝心な待ちに待った機内食の時なのに、からかうようにフランス語で何か捲し立ててきて、ワハハハハハと笑う。まあ、聞かれる事なんて2種類くらいのメニューからどっちを選ぶかくらいしかないけど、それでもフランス語だから何があるのか分からない。仕方がないので英語で「メニューを見せてくれ」と言い、指さしで指定した。そうしたら多分メニューを復唱したのだろう、フランス語でまた何か捲し立て、ワハハハハと笑って私が指定したメニューを出してきた。この人、絶対英語も分かってるのだろうな。その上であえてフランス語で返事をしているのだろう。その後も私が英語で伝え、フランス語で捲し立てられるという事が続くが、あっちは理解してるので、なんの問題もなく事は運ぶ。しまいには私も一緒にワハハハ笑ったよね。

 正直に言って、かなり面白かった。おじさんは馬鹿にしているわけではなく、きちんと接客してくれるし、ちょっとフレンドリーに突っ込んでるという感じだったので、ちくしょーとは思ったけど、全く不快ではなかった。


 さて、いよいよお待ちかねの機内食、エコノミークラスの小さなテーブルに所狭しと食事が並ぶ。

 あまり覚えてないけれど、サラダ、スープ、小鉢、メイン、パン、デザートといった普通の食事だったと思う。

 私はガサツだし、たかだかエコノミークラスの食事だし、フォーク一本で全部済ませようとした。しかし、ふと隣のフランス人のおねえさんを見ると、なんとフォークとナイフを取り出し、サラダから順番に食べているではないか。スープもスプーンを使って一口一口丁寧に口に運んでいる。反対隣も、その向こうの人もみんなフォークとナイフをお上品に持ち、一皿一皿、順番に丁寧に食べている。あのコンパクトなテーブルと小さな食器の中で器用にナイフとフォークで一口ずつに切り分け優雅に食べているのだ。しかも食べる順番も守るのだ。

 アジア人のお箸使い並みにびっくりすることではなかろうか。あの状況でナイフとフォークで綺麗に、しかも私に肘が当たるといった事もないのだ。

 コンパクトな機内食なのに、そこまでお上品に優雅に食事をする姿を見て、急に自分がお猿さんにでもなってしまったような気分になった。小さい頃からそういうふうにしつけられているのだろうな。しかも食べ散らかしたりせず、綺麗に食べる。食事マナーは違うにしても日本にも勝るとも劣らない食育がフランスにもあるのだと、なんだか感心してしまった。

 

 飛行機は無事にシャルルドゴール空港へ到着、降り側ににあの「絶対にフランス語以外しゃべらないマン」がまたフランス語で私に向かって何か捲し立ててワハハハと笑っていたので、私は日本語で、「ありがとう、またね〜、ワハハハ」って仕返ししてみた。この人は普段から陽気でフレンドリーおじさんなんだろうな。おかげでなんか楽しかった。

 そしてその飛行機を降りてみたらなんのことはない、普通に英語が通じた。あの「絶対に英語喋らないマン」はあの機内の数少ない日本人に対するおもてなしだったのかもしれない。少しでもフランス気分を味わせてくれたというか、もしかしたらフランスに行ったらお前のカタコト英語なんて通じないよ、しっかりフランス語も勉強しろって事だったのかも。でも、この事件を経て、他の国に行ったら、言葉も含めて楽しむのが醍醐味なんだろうとも思えた。

 なので今私は日本で外国人に会ったら、とりあえず日本語で話しかけるようにしている。相手は日本語話したいって思ってるかもしれないしね。もちろん、お互いに通じず、かなりじれったい会話になることも多いが、それでも頑張って聞いて、頑張って話す。軽く嫌がらせって思われてるかもしれないけど、それで良いのだ。日本を存分に味わって帰って欲しい。


 いよいよ2本目、フランスーニューヨークの飛行機。こちらでは食後に上等な美味しいコニャックをいただいた。「これを飲んだら一瞬でニューヨークだよ、ふふふ」と今度は英語を話してくれるおじさんクルーが小さな紙コップに波波とコニャックを注ぎながら不敵な笑みを浮かべていた。いや、そんなに飲めないよ、と思ったけれど、せっかくなのでちょびっとずつ味わったが、頑張って飲み終わったら言われた通り一瞬で気絶、目が覚めたら、最後の機内食だった。

 食事も終わり、そろそろ降り支度という時に、おばさんクルーが大きな袋を持って最後尾くらいの私の座席のところに来た。

「これどお?たくさん余っちゃったのよね。少し持っていかない?」と見せられたのはエコのヨーロッパらしく個包装袋に入っていない機内食の余りのパンだった。いやいや、パン屋のバイト帰りじゃないんだからさ、余ったパンとか持って帰れないよ。

 しかもこれから降りるって時に裸のパン、なおさら持って降りれない。本当に美味しいパンだったけど、これから着陸までの短い時間で食べ切る自信もないし、残念だが、涙を飲んで断った。しかし、そのおばさんクルーはめげずに周りの乗客にどんどんパンをすすめている。状況的にもらう人いないだろうと思ったけど、案の定、見る限りみんな断ってる。おばさんクルーは「あれ?なんで?みんななんでいらないの?」って顔してうろうろしてたけど、まあ、そりゃそうですよね。もしも機内食を食べている時におかわりすすめてくれてたら、もらってたと思う。

 でも、そのおもてなしの心、好きよ。余ったらもったいないって、多分思ってたんだろうな。私も思うし、その気持ちよく分かるよ。そして、個包装されてないっていうエコ意識も好きよ。ただ、持ち運びには少し不便だったってだけで。それとも持って降りろって事じゃなくて、降りる前に食べていけって事だったのかな。その後のニューヨークの入管手続きは気が遠くなる程長いし、その間にお腹が空いたら大変ていう母心のようなものだったのかもと今は思う。

 世界、どこに行ってもおばさん達は優しくて、お節介で、ほんわかと心細さを救ってくれる。

 でもそんな柔軟な接客は某感染症もあったし、世界は科学やITの発達に伴いどんどんカクカクしてきているから、もう味わえないのかもしれない。

 

 そんなこんなで私の某フランス航空のプチ珍道中はおしまい。

よくヨーロッパ人はアジア人を差別するなんて言われてるけど、少なくとも飛行機の中ではされなかった。まあ、私が気づかなかっただけかもしれないけど。意外と言われている程みんながみんな差別をするわけではないのかもね。

 お金がないから、フランス観光まではできなかったけれど、飛行機だけでも十分楽しめた。フランスの文化、風習に少しは触れられた気がして楽しかった。

 安くて、変なルート、変な乗り換えのチケットは結構出ているので、機会があれば是非是非利用してみて欲しい。たかだか飛行機でも新しい発見があるものだしね。



 

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