第42話

「…………」

 我は、黙って見下ろしていた。


 無性な、やるせなさを抱いて。


 ――分かっている。シスラクトがああしなければ、クライグの力が本当に暴走していた。それは分かる。――と、


「貴様……何者だ?」

 この声……神威……まあ、わざわざ確認するまでもない。

「ゆっくりと、こちらを向け」


「十年ぶりだな。シスラクトよ」


 無論、冗談である。我がこのシスラクトと出会うのは、これが初めてだ。……というか、見つけられるとは思わなかったのだが。油断した。


「……! スクーヴァル!?」

「違うであろう。色が蒼い。

 汝ほどの者がそれ程動揺するとは……さては、良心でも傷めていたか?」


「貴様、何者だ?」

「教えて欲しいか?」

「言わねば、殺す」


「できるなら、な」


 シスラクトが、動いた。無数の光弾が生まれ、迫ってくる。

 我は、避けない。避ける必要もない。


 全て、消滅させた。


「……な……!」

「本気で来るが良い。中途半端で死にたくなければ、だが」


 シスラクトが吼え、力を解放する。それが収束する寸前――


「駄目ですよ。スクーバル」


 ……げ。来た。

 空間が歪み、そこから末端が瑠璃色のプラチナブロンドの男が現れる。


「さあ、戻りましょう」

「……分かった」

 言い、我は踵を反す。


「……待て!」

「待てぬ」

 追い縋るシスラクトを少し振り返り、言った。


「分かるであろう? こやつを怒らせるとどうなるか。それは避けたい」


 我が抜けるまで背後を見ていたムィアイーグが、ふと、我の前に出てくる。


「……スクーバル……」

 穏やかな、しかし非難がましい目。


「大丈夫だ。接触したのはあれが初めてだ」

「そういう問題ではないでしょう」


 また、長い説教が始まった。


 ムィアイーグの言葉を聞き流しながら、我はもう一度、ヘグルマンタスに注意を向けた。

 ただ、正常なようだ。


 ――それならば、それでいいか。


「スクーバル、聞いていらっしゃいませんね」

「聞いておるよ」

「なら、最後に私がなんと申し上げたか、仰ってください」


 我は、無言で進んだ。

 後ろに、ムィアイーグの説教を聞き流しながら。


 ――そういうものだ。世界とは。個人など見返りもせず、延々と流転する。



◆◇◆◇◆



 これより遥か先――父上がこの地を訪れる時。それが、全ての終わり。全ての始まり。

 ヴィルデシアとヴィルデジア。それが――全ての、源だった。



 ―― Fin ――

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る