第36話

――終わり。です。

 ふと、そんな声がした。


 見やれば、目の前に女が立っている。長いベージュの髪。赤い瞳。きっちりした印象の白い衣服に身を包み、背の高い帽子を被っている。


「……アルシオ?」

 彼は、呟いていた。彼女の本当の名でなく、知った方の名を。


 女は、少々驚きを見せたが、

「わたしが誰か、お分かりになりませんか?」

 静かに、問う。


「……ああ」

 少し思考を巡らせ、合点がいったように呼びなおした。

「……レグア、だな? 闇王あんおうレグア」


「はい。おなつかしゅうございます」


「……で、オレに何の用だ?」

 和んだ雰囲気の中、話が続く。

「……終わり。です。

 お分かりですね」


「……ああ……」

 頷き、レグアが差し出した手を取る。しかし――


 彼の頭に、栗色の髪の娘の姿が浮かんだ。


 ――スクーヴァル?


 彼女は、生きていけるだろうか。兄を亡くし、故郷の壊滅を目の当たりにして。

 リガスが居る。しかし……彼女を託されたのは……


 そこで、停まった。

 レグアの姿が、消え失せる。


 一人残った彼は、不思議そうに辺りを見ていた。



◆◇◆◇◆

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