第33話

「アルシオが消えた?」

 ロスオイト。リガスの執務室にて。


 スクーヴァルとケイディスは、沈痛な面持ちのリガスから悩みの原因を聞いていた。

「……いつものことじゃない」

「神官長、泣いてるだろ」

 事も無げに言う二人。リガスは、


「……違うんです」

 そう呻く。


「神官長宛てに、後は任せるという書置きが。それに、ロッドも置いてあったようで……」

 二人は、顔を見合わせ、


「お腹すいたら戻ってくるんじゃない?」

「だな」


「…………」

 今、護王教団は『聖祭』の最中である。護王の月 前・護王の日から後・護王の日の間行われる護王教団最大のイベントで、当然、大神官であるアルシオは、祭が全て見渡せる場所で祈りを捧げていなければならないのだが……今そこでは神官長が泣きながら祈っている。


「そういえば、どうしてアルシオは大神官なの? 信心薄いのに」


「薄いんじゃありません!」

 珍しく叫び、リガスが立つ。

「……無いんです。薄いんじゃなくて」


「……そう……」


「先代の大神官の遺言だったんだぜ」

 ケイディスが、遠い昔の話をする。

「親友同士だったんだ。先代は何度も、アルシオに後を頼んだんだけどよ、断られてな。……んで、遺言に残したんだ。

 まあ、あいつも、友達裏切るのは気が引けたんだろ」


「……いつの話?」

「……五万年ほど前だったかな……。オレは時間の感覚薄いからな」


「とにかく、アルシオがどこかに居たら、連絡してください。直接護王教団に連行してもいいですから」


「はーい」

「できたらな」

 言って、二人が出て行く。その後ろ姿に微笑み、


 ――大丈夫みたいですよ……。

 胸中で、呟いた。冥王の領域に消えた、友に。


 ニーバッツ壊滅から、既に三ヶ月が過ぎていた。



◆◇◆◇◆

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る