第31話
「邪神と呼ばれ、追われる身となった戦と死の神は、最後にこの地に辿り着いた。そして、自らの全てを使い、この世界――ヘグルマンタスを作った。
自らの力を分け与えた十五神王に、この世界の守護を命じ、消え去ったと言われている。
主なる神の立場から言えば、この世界とそれを護る十五神王は、最後に残った敵。滅ぼさねばならない存在。故に、幾度も討伐隊が送り込まれたが――戦と死の神の力を受け継いだ十五神王は、主なる神が生み出した十神王よりも強く……第一仕神か第二仕神、あるいは主なる神自らがやって来なくては倒せない存在となっていた。ところが、戦時はともかく、主なる神の下に安定した世界では、この三神が動くのはよほどのことがない限りありえない。そこで、十神王は何とか、十五神王の護りを破る方法を考えていたが――やがて、光王が一つの手段を思いついた。
それが、『
内容そのものは難しくない。ヘグルマンタスに光王――光王といってもこの世界の光王ではない。主なる神の側の、光王。主なる神も戦と死の神も似たような神だからな。とにかく光王の器となる巫女を侵入させ、ヘグルマンタスの中で儀式を行い、巫女に光王を憑依させ、内側からヘグルマンタスを壊す。実際は、巫女はこの世界で作ることにして儀式を行うための神官送り込まれた。そして、その神官がステアルラと呼ばれていたキオ――つまり、俺だ」
――知っていた。ケイディスはリガスから、スクーヴァルはムィアイーグから、同じ話を聞かされていた。
「だが、道具としてしか見做していないようでは、お前に信用されるのには無理があった。だから、俺が作られた。奴がニーバッツからの移住を決めた頃に、邪魔と判断されて棄てられたが」
巫女を覚醒させた後に、神官の手で殺す――それが、巫女に光王を憑依させる手段。……さぞや、邪魔だっただろう。
「……ケイディス。一つ聞きたい」
真直ぐに彼を見据え、問う。
「スクーヴァルを、どう思っている?」
「……どうって……」
ケイディスは、頬を掻きながら、
「……今まで、人を好きになったことなんてねぇから、はっきりとは分からねぇ。
……でも、守りたい。何があっても。それで……一緒に居たい」
その答えに満足したように、今度は妹の前に行く。彼女の両肩に手を置くと、
「……ケイディスを頼れ。大丈夫。俺やリガスよりも頼りになる。そして……
きっとお前を、幸せにしてくれる」
それだけ言うと、ティラムに向き直り。
「
「こらこら、光王は『光王』で、あたしが『冥神王』かい?
敬意は自分のご主人様に払いな」
「……どうでもいいんだ。もう」
「そうかい。じゃ、行くよ」
最後に二人を振り返り、笑顔を向けると、ステアルラの姿は光の球になった。それはそのまま、ティラムの掌に納まる。
「さあ、用は済んだから帰りな。こいつはあたしが責任を持って預かるよ」
その声を最後に、空間が繋がる。気がつくと、氷王神殿のスクーヴァルの部屋だった。
「……ス……」
「スクーヴァルちゃん!」
リガスが何か言うより早く。
セシトイオが、スクーヴァルに抱きついた。
「何しやがる!」
間髪、殴り倒すケイディス。スクーヴァルはリガスが保護した。
……まったく、少々干渉しすぎではないか? ……まあ、良い。それだけ、今のあやつらに余裕があったということにしておこう。
……我も、人のことは言えぬが、な。
◆◇◆◇◆
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