第26話

「スクーヴァル……」


 話を終え、二人は彼女の部屋に戻った。


「……貴方が……?」

 リガスが洩らした呟きに、ケイディスが首を傾げる。

「氷王……ムィアイーグ……」


「……何がだ?」

 ケイディスの声に、リガスは振り向き、


「彼、ムィアイーグでしょう?」

 部屋の一点――スクーヴァルの枕元を指して言う。


「……何が? 誰もいねぇぞ」

 それに、リガスが何か言うより早く、ムィアイーグの姿は消えてしまった。


「スクーヴァル!」

 そんなことに構っている余裕はないのか、ケイディスが側に寄った。


「……眠っていますね……」

「眠らせたんだ。オレが。……こうでもしねぇと、自分を……」


 黙って、彼女の額に手を当てた。


「……どうした?」


「彼女の精神に入り込んで、落ち着かせます」

「ちょっと待て!」

 リガスの胸倉を、ケイディスが掴む。


「それがどういうことか、分かってんのか!?」


 精神への侵入。つまり、全てを観る事だ。――記憶、――経験。――想い。――全て。


 それこそ、誰にも知られたくないこともあるだろう。知られただけで、死にたくなるようなこともあるだろう。


「分かっています。じゃあ、貴方は……

 一生! 彼女を眠らせておくつもりですか?」


 弾かれたように、ケイディスが身を引く。その隙を逃さず、彼女に触れ、

「……ごめんなさい、スクーヴァル。もっと早くに気づいていれば……」


 ――沈黙。


「……どうだ?」

 ややあって、洩れた問いに、溜息をつきながら、

「……既に、ムィアイーグが処置してくれていたみたいです」

 疲れた微笑を浮べながら、言う。


「次は、ステアルラですね」

 どちらからともなく、転移した。



◆◇◆◇◆

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