第16話

「……ここは……?」

 夜空から星と月を除いたような、何も無い空間。――虚。その一言が相応しい。


「……ごきゅう宮……だ。多分」

 ケイディスが、呟く。スクーヴァルに杖を返しながら。


「十五神王の空間……護王シスラクトの領域だ」

 最初は自信なさげだった言葉が、次第に確信を帯びてくる。


「……来た」

 ケイディスが指し示した方向から、雪よりも白い竜が現れる。


 一点の穢れも無い純白の肌に、銀の双眸。流線型のフォルム。それは、四人の前に降りると、姿を変えた。


 白い髪に銀の瞳。がっしりとした体躯を、モノトーンの衣服に包んでいる。先程の竜の姿のイメージと比較すると、少々いかついか。


 彼――シスラクトは、ケイディスに歩み寄ると、

「……ここまで来たということは、ムィアイーグと接触したんだな?」

 事務的な口調で言う。


「……いや、接触したのはスクーヴァルだ」

 ケイディスが彼女を指しながら言うと、その手の中の杖を受け取り、

「――ラズガルズ」

「……え?」

「これの名称。そして発動の鍵となる言葉だ。それを使えばロスオイトに戻れる。

 現状では、俺からこれ以上言うことはない」


 彼女の手にラズガルズを戻しながら言うと、即座に竜の姿に戻り、飛び去った。


「ちょっと待て!」

 ケイディスは、一応叫んだが。


「……あいつらしいか。

 戻ろうぜ。……っと!」


 突然、何かを思い出したかのように、

「スクーヴァル、ちょっと聞きたい」

 彼女を真剣に見つめた。

「……え? 何?」


「お前の兄貴だ」


「……お兄ちゃん……どうしたの?」

 リガスも真面目な面持ちで側に来る。

「どういう兄貴なんだ?」

「優しいよ?」

「……そういう風には見えなかったぜ」


 スクーヴァルは、表情を暗くし、

「そりゃ……最近は……でも! 本当に優しいんだから!」


「オレは、お前を抱えてロスオイトに行った。その時は、あれが兄貴だとは思えなかったぞ? お前を見ても、何も言わねぇ。表情すら変えねぇ。お前が起きたときは側に居たけどな、ほんの少し前に来ただけだぞ? 偶然だ。分かるか?」


「……でも、お兄ちゃんは……お兄ちゃんは……」


「スクーヴァル」

 リガスが、彼女の肩を叩く。


「私の目から見ても、異常ですよ。……あなたに聞くまで気がつかなかったのは申し訳ありませんが」


「そんな……だって……」

「とにかく、あの兄貴と話さなくちゃな。戻ろうぜ」


「……う、うん……」

 戸惑いながら、ラズガルズを発動させるスクーヴァル。三人の姿が消え――後には護宮と、そこに忘れ去られたアルシオが残った。



◆◇◆◇◆

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