第13話

――?

 気がついて、辺りを見渡す。


 ただ、白い空間。壁も床も天井も真っ白。迷路のようになっているのか、道が続いている。


 ふらふらと歩くが、誰も居ない。何も居ない。ただ、白い道のみ。


 栗色の髪を掻き揚げる。これだけが、視界に入る中で色をつけていた。


 確か……ニーバッツに行こうとして……。

 ゆっくりと、思い出す。


 ――そうか。転移に失敗したんだ。

 ごく稀に、そういうこともある。もともとそういう素質(?)があるということが条件なのだが。どうやら、ニーバッツに転移しようとして違う場所に紛れ込んでしまったらしい。


 ――天性の方向音痴。それが、この事象を起こす条件。……どうしてこう個性的な奴が多いのだ。


 無論、こんな稀有なことをする奴がまともに道を進める筈は無い。……おい、そこはさっき通ったぞ。……いや、そこは逆……。戻ってるぞ、それ……。


「……どうなさいました?」

 見かねたように、声が聞こえた。


 振り返れば、繊細な、という言葉が真っ先に出てきそうな青年が立っていた。直前まで、何の気配もなかったのだが。


 彼女は転移で現れたのだと思ったらしい。ほっとしたように笑顔を浮かべ、

「あの……道に迷っちゃって……ここ、どこですか?」

 目の前の青年に問う。


 プラチナブロンドの長い――床についてもなお続く髪。その先端は、グラデーションを経て瑠璃色に変化している。淡い青の、薄い布を幾重にも重ねられて作られたローブとマント。マラカイトの双眸。


 身の丈を超える装飾性の高い錫杖を持ち、静かに佇んでいたが、

「氷王神殿です。早くお戻り下さい。皆が心配なさいますよ」

 笑顔で言う。


「……えっと、帰り道が分からなくて……」

 言われ、彼は少し考えた。


「ああ、迷い込まれたのですね」

 言い、錫杖を持っていないほうの手を翳した。光が生まれ、収束する。


 一瞬の後には、彼が持っている錫杖を短くしたような杖があった。


「これを持って、行きたい場所、会いたい人を思い浮かべて下さい。あとは、これが導いてくれます」


「え? でも、なんだか大事なものみたい……」

「いいですよ。貴女なら。

 それに、……延々道に迷われたいのですか?」


 優しい笑顔で言う彼に、彼女は押し負け、杖を受け取る。


「あの……わたしは、スクーヴァル。あなたは?」

「ムィアイーグ、です。

 さあ、今は私がお送りしましょう。お帰り下さい」


 ――ムィアイーグ。その名に彼女が反応するより早く、彼は彼女をロスオイトに送り返していた。



◆◇◆◇◆

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